桜舞い散る四月の上旬。黒乃レイラは制服に身を包み、私立の中高一貫校「聖グレモリー学園中等部」の校門をくぐった。
彼女は金髪のボブカットで、肌は病的な印象さえ抱かせるほどに白く、背丈はかなり高めで170センチ程度あろうかといったところである。吊り目がちな瞳はブルーで、スレンダー体型のすらっとした風貌だ。
ドイツ生まれの日独ミックスであり、小学校低学年までドイツ・ハンブルグに住んでいたレイラは、日本の小学校にあまり馴染めず、公立中への進学を避けたい思いから中学受験をした。その結果合格し入学できたのが、ここ聖グレモリー学園なのであるが、いかんせん彼女は塾に通っていなかったため、顔見知りレベルの知人すらいない。周りが同塾出身者等で固まっている一方、レイラは早速一人ぼっちである。
校門で母親に記念撮影をしてもらったまでは良かったが、とぼとぼと一人で集合場所の体育館へ向かう彼女の様子はなんだか惨めであった。
結局誰とも話さないまま校門から体育館まで移動したレイラは、中に入り指定された席へ座る。
「周り知らない人ばかり……。ライブより緊張する……」
しばらく待って全員が席に着き、定刻を迎えたところで入学式が始まった。校長先生の長い話に、主席合格者による新入生代表挨拶、といたって普通の入学式であった。
式が終わり新入生以外の退場が済むと、お待ちかねのクラス発表である。体育館の後方に貼り出された表を見て、レイラも早速自分のクラスを確認した。……三組であった。まあ、知り合いすらいない以上どのクラスでも変わらないのであるが。
三組の教室に着いてレイラが中に入ると、教室が一瞬ざわっとなった。ヒソヒソ声も少し聞こえてくる。
「この反応、何度くらってもイヤなものね」
レイラは小さく独りごちると、表では気にしていないふりをしながら自分の席へと向かう。中学初の自席は窓際の席であった。ドイツ人である父親の遺伝が強く、日本ではどうしても外見で目立ってしまうのが、レイラにとっては日本に引っ越してきて以来のコンプレックスである。偏差値高めな私立校に行けば多少はマシかと思ったのだが、そうでもないようだ。
レイラは席に着いて、ボーっと外を眺める。――私の居場所は、どこにあるんだろう。
そして、ふと窓と真逆、隣席の方を眺めると、ふわっとした黒髪ロングの、いかにも内気そうな少女が座っていた。澄んだ紫色の瞳に、柔らかそうな頬。レイラは自分とは内気っぽい所以外真逆だな、と思っていた。
そんな事を考えていると、担任の先生が入ってきてオリエンテーションが始まった。
「……では、今日はこれにて終了です。明日は教科書の購入と部活紹介がありますので、教科書代を忘れないようにしてくださいね!」
オリエンテーションが終わり、クラスメイト達が騒いでいる中、レイラは机に突っ伏していた。自己紹介、上手くいかなかった。
さかのぼること数十分前。自己紹介タイムでレイラの番が回ってきた。
「く、黒乃レイラよ。趣味はエレキギター。よろしく」
レイラが自己紹介を終えた途端、しーんと教室が静まり返った。他の人は大体周りからガヤが飛んできていたのだが。やはり、外見のせいで怖がられているのだろうか。
時を戻して現在。レイラは初日から浮いてしまっているという事実を突きつけられ、悲しみに暮れていた。かといって、このまま帰ったら本当に終わりだ。暗黒の六年間を送る羽目になってしまう。しかし、何をすれば。
そんな事を考えていると、隣席の少女――海那さん、だっけ――がレイラに話しかけてきた。
「初日からそんなに落ち込んで、どうしましたの?」
海那の声はいわゆるアニメ声に近い、可愛らしいものであった。やや低いレイラとはここでも真逆である。レイラは顔を上げ、海那の方を向く。
「その、自己紹介、誰も興味なさそうだったから……」
「エレキギターを演奏できるだなんて素敵だと思いますわ! ぜひ今度演奏を聴かせてください!」
目を輝かせて迫ってくる海那に、レイラは思わずたじろぐ。見た目とは裏腹に、なかなか積極的な性格なようだ。本当に趣味は漫画と絵を描く事なのだろうか(見た目と趣味だけで人を判断するな。)。
それにしても、顔を近付けてきた海那は良い香りがするし、とても可愛らしい。たゆんと揺れる胸をはじめとした、グラマラスな体型もレイラを惹きつける。レイラは思わず頬を薄ら赤く染めていた。
「あ、ありがと。……そうだ、漫画なら私も好きよ。どういうジャンルが好きなの?」
「うふふ、恋愛モノですわ! 恋にときめく女の子って、素敵じゃないですの~!」
もしかして、海那も自分と同じく同性もいけるクチか、とレイラは気付く。そこで、試しに訊いてみる。
「実は私、百合漫画なんかも時々読むんだけど……」
「最高ですわ! まさか初日から同志に巡り逢えるだなんて!」
海那は嬉しそうにその場ではしゃぐ。レイラはそんなに多読な訳ではないが、それでも仲間意識を持ってもらえたのが嬉しかった。
不思議と、息が合ってきたと二人は互いに感じていた。初対面のはずなのに、なんだか楽しい。
「海那、なんか私と気が合いそうね。これからもよろしく! あと敬語は使わなくていいから!」
「そうですの? じゃあ、よろしく、レイラ!」
「……レイラ、何を考えてたの?」
「ん、去年、海那と初めて話した時の事」
少し恥ずかし気にそう答えたレイラ。それはレイラと海那、二人にとって運命とでもいうべき出逢いであった。
